ストリング原糸の種類と特徴

 入門者用弓具向けのダクロン原糸を除くと、競技用ストリング原糸は新旧のバリエーションを含めたダイニーマ繊維にほぼ独占されている状況です。ダイニーマはSK表記された型番の数字の大きさで改良度合いを判断できるようですが、改良の方向としてはより伸びにくく、強靭にしていくということのようです。ダイニーマやスペクトラのような高密度ポリエチレン繊維がアーチェリー用ストリングに採用されたのは、伸びが少ないことをはじめとして、弾性率に優れていること、繊維が軽量であることがその理由であったわけです。同じダイニーマ繊維を原料としていても、さらなる軽量化を特徴とするためにワックスをまったく含まないストリング原糸や、液体ワックスにより軽量化を追求して製品化されたものもあります。新しいストリング原糸製品の発表は頻繁にあるものではありませんが、近年の製品は、コンパウンドメーカーに採用されることを期待してストリング原糸を開発しているのではないかと思うことが少なくありません。高性能になったとされるいくつかの新型ダイニーマ繊維を使用したストリング原糸を使ってストリングを作成してみていますが、弓鳴りが軽やかで気持ちのいい、軽量感を感じるストリングが少なくなっているような気がします。競技として90メートルを射つ機会が少なくなり、サイトの高さを気にするすることがなくなったからかもしれませんが、ストリングを軽量化する改良の方向は軽視され、感触としてはどれもベクトランを混紡したコンパウンドボウ用ストリング原糸と同じような感じになっているような気がします。

 コンパウンドボウのストリングの伸びは、チューニングのズレにつながるので、伸びないことは極めて重要な要素ですが、新製品のストリング原糸でストリングを作成するたびに、リカーブ用ストリングに求められる性能は違うのではないかと感じているところです。このページはメーカーが強調するほどに製品に違いがあるなら、その特徴を紹介しようと考えたのですが、主観で個々の製品を評価していくのは難しいものがあります。いろんなストリング原糸を評価するたび、ファストフライトや8125のほうがいいと感じるのは、決して懐古趣味があるからではありません。2大メーカーのブロウネルとBCYが本気で競い合った時代の製品であることと、ファストフライトプラスがダイニーマを原料としながら元祖のスペクトラ製ファストフライトに特性を近づけようと努力していたことが、その性能の本質を物語っているような気がします。


Brownell B50, BCY B55

 ポリエステル繊維のDacronを原料とした、もっともベーシックなストリング原糸です。Dacronは日本での「テトロン」と同義で、米国における商標がDacronであるため、ストリング原糸の名称としては「ダクロン」と呼ばれることが一般的です。繊維の特性として、高い耐久性と強度を持ち、高い耐磨耗性、高い弾力性、形状の復元率が高く、水にも強く濡れても乾きやすいという特徴を利用して古くからアーチェリーストリングに使われてきたわけです。ダクロンの大きな特徴である高い弾力性は、リムの反発エネルギーの一部を吸収してしまうという欠点にもつながり、矢速も落ちてしまうため、近年ではリムチップの強度が不十分な入門者向け弓具用のストリングとして使用されています。



Brownell Fast Flight

 伸びやすいダクロンに対して、米国デュポン社が開発したアラミド繊維「Kevlar®」もアーチェリー用ストリングに応用され、同じ重さで比較すれば鋼鉄の約5倍の強度、伸びにくく熱や摩擦にも強く切創性や衝撃性にも優れるなどの特性から、矢速を飛躍的に向上させることを可能にしましたが、300~500射程度で確実に破断するという致命的な欠点もありました。米国ハネウェル社は、超高分子ポリエチレンを原料とし、ケプラーに対しても40%強度に勝る繊維を開発し、水に浮く程の軽量、優れた耐摩耗性、曲げ疲労耐性、UV耐性、低摩擦係数などの特徴を併せ持ち、アーチェリー用ストリングとしてまさに理想的な原料を登場させました。この繊維はスペクトラの名称で呼ばれ、最初にアーチェリー用ストリング原糸として製品化したのがBrownell FastFlightであり、「ファストフライト」がストリングの代名詞になるほど人気を博しました。しかし、スペクトラ繊維は、その柔軟性や強靭性から軍の装甲用途としても重要な資材であったため、中東紛争の勃発に伴い、全生産が軍需品として接収されてしまったため、Brownell社はやむなく人気商品を廃番とせざるを得なかったわけです。




Brownell Fast Flight Plus

 FastFlightが主力商品であったBrownell社には、そのほかにもストリング原糸製品はありましたが、突然のFastFlight廃番の穴を埋められるほど人気のある製品はありませんでした。そこで、入手できなくなったスペクトラの代わりにダイニーマを原料とし、人気のあった名称をそのままに、「プラス」を付加して製品化されたのがFastFlight PLUSです。ダイニーマはスペクトラに比較して伸びにくく安定性に勝る点が逆にシュート感覚の硬さにもつながるわけですが、旧FastFlightの性質に近づけるよう、ダイニーマ製でありながら、感触を軟らかくしたことが特徴の原糸です。

 名称の一部にFastFlightがそのまま使われているため、旧製品の改良版だと信じている方もいるようで、旧FastFlightもそうでしたが、入門者用のストリングと決めつけているような方の話を聞くと、なんだか残念な気持ちになります。ストリングは実射感覚の好みで選ぶべきであり、入門者用、競技者用の区別はないことを認識していただきたいと感じます。



Brownell TS Plus

 Brownell社では、伝統的に原料繊維名を製品に明記していませんが、このTS Plusはダイニーマを原料としているようです。似たような製品としてTS-1 Plusというものもあり、もう手元に残っていないので確かな情報ではないかもしれませんが、こちらはFastFlightよりも細くワックスを多く含んだ製品であったと記憶しています。ショップによっては、TSもTS-1も区別せずに販売していたところもあったようです。

 推定の域を出ませんが、このTS Plusも原料入手難の混乱の中で製品化されたものなのかもしれません。原糸の太さもほぼFastFlightと同様なため、ストランド数も同様となります。ダイニーマを原料とするため、初期の伸びはスペクトラよりも安定性に優れています。近年の製品の比較するとカラー原糸は発色の鮮やかさに若干劣り、くすんだようなカラーになってしまいます。



Brownell Astro Flight

 改良型ダイニーマを使用した新世代のストリングです。Brownell社では原料繊維名を明示しないので、詳細なところはわかりませんが、比較的太めな原糸構成で14本ストランドで標準的なサイズになります。固体ワックスは使われておらず、液体シリコン系ワックスを含んでいるものと推測され、サラサラと手触りも柔らかく、軽量感の感じられるストリングです。安定性も問題なく、発射音も非常に静かです。

 ファストフライトプラス、TS Plus、ダイナフライト、フォーミュラ8125あたりは、ショップブランドのストリングで一般的に使われている原糸なので、これらをスタンダードグレードとすると、アストロフライトはそれより一クラス上のハイグレードクラスとなります。アストロフライト製ストリングは、ストリングメーカーのFlex製あたりで銘柄を指定すれば入手は可能だと思いますが、一般的にはこのクラスから使用経験者は限られた数になると思います。



Brownell XS2

 原料は、新世代の改良型ダイニーマを使用しているようです。Brownell社では、製品の詳細を明確にしていませんが、エンゼルのMajestyのような樹脂加工が施されているようで、固形ワックスを含んだ原糸と異なりべとつかないため、作成したストリングは原糸がばらけないすべすべの一体化したものとなり、非常に上質感があります。

 この原糸もハイグレードクラスになります。

 



Brownell FURY

 最新の改良型ダイニーマを原料にしているストリング製品で、BCYの新製品と同様、原糸の太さも非常に細くなっていて、20本前後のストランド数で標準的なストリングの太さとなります。製品の出現時期から考えるとSK90あたりを素材にしているものと推定されます。非常に滑らかなワックス成分を含み、原糸の状態では毛羽立ちが目立ちますが、ストリングの完成品になると滑らかで手触りの良い感触になります。BCYがBrownellに先立ってSK90を8190Uとして製品化した際に、べとついたワックスを大量に含ませたのは、繊維が毛羽立ちやすい性質があったからかもしれません。その点、製品化は遅れたものの、ストリング原糸への加工技術はBrownellのほうが巧みなのかもしれません。

 飛躍的に性能を向上させたSK90番台を採用した原糸はストリングのプレミアムクラスといっていいかもしれません。



Brownell RAMPAGE

 Brownell社の最新製品となるストリング原糸です。BCY社のMercuryに対抗する製品の位置づけなので、たぶん素材はSK99あたりになると思います。

 非常に細い原糸であるため、ストリングの製作には20本程度のストランドが必要になりますが、20本でもやや細めになります。

 



Dyna FLIGHT02

 ストリング原糸が軽量であることは、矢速アップに直接影響することから、固型ワックス成分をまったく含まず、軽量化を追求したストリング原糸です。素材はSK75が使われていますが、繊維同士がワックスで密着していないため、ストリングを外した状態では一般のストリングよりも太く見えます。

 同じ軽量化を追求したものとして、Angelのダイニーマがありますが、02では原糸にツイストが加えられているため、感触は異なったものとなります。後継となる「Dyna FLIGHT10」は、素材をSK78に変更したものです。

 この原糸はスタンダードクラスになりますが、ストリングを張った状態でないときは、ばさばさにばらけて見栄えが悪いので、たぶんショップブランドの完成ストリングには採用されていないと思います。



BCY Formula 8125

 SK75を92%、残りを柔らかめのSK65で構成したストリング原糸です。Brownell Fast Flightより安定性に勝るストリング原糸としてライバル関係にあった製品であり、矢速においても一級の性能を持つものとして定着しています。少し前までは、PSE社のコンパウンドボウ用の純正ストリング素材としても使われていて、メーカー側からも性能が信頼されているストリング原糸です。

 SK65がダイニーマとしては旧製品となり、入手が困難となったことから代替え素材としてGore繊維を使用したものが、現行の「8125G」になります。



BCY 8190

 最新素材のSK90ダイニーマを採用したストリング原糸です。繊維の特性として、従来のダイニーマから飛躍的な強度アップがなされていますが、繊維の重量的には従来のものより重くなっています。「8190 Universal」は、リカーブおよびコンパウンド兼用のストリング原糸として市販され、ワックスがたっぷり載った製品でした。繊維自体も重いことに加え、ワックス重量もプラスされることで、重たいストリングになってしまったことから、ワックスを減らし、Gore繊維の混紡をやめた製品が「8190F」です。Gore繊維の混紡は、8125Gでは問題は起こらなかったようですが、TROPHYでは好まれずに不人気となっているので、Gore繊維の混紡は必ずしも性能向上の役目を果たしているわけではなさそうです。



BCY 452X

 コンパウンドボウ用ケーブルおよびストリングの素材としてもっともポピュラーなストリング原糸です。SK75を主体に、33%のベクトラン繊維を加えてクリープ変化を抑え込んでいます。主要なコンパウンドボウメーカーにも標準品として採用されています。

 リカーブ用ストリング素材とても使えないことはありませんが、ベクトランが33%含まれていることにより、非常に硬い感触となります。そのため、ベクトランの量を半分に減らしたうえ、ダイニーマ繊維を最新のものに変更し、リカーブにも対応できるようにしたものが「BCY-X」です。

 Brownell 「Xcel」、FIVICS「STRAFE」は、構成繊維素材が同じ同等品です。

 なお、Win&Win社の本家HPでは、Win製リムにはベクトランを含んだストリングを使用しないよう警告しているので注意が必要です。なぜか、日本のWin&Winのホームページでは、この情報は明確にしていません。



BCY TROPHY

 基本的な構成は452Xと同様ですが、これにGore繊維を加えたものです。Formula 8125では構成繊維の一部をGoreに変更しても評価に変化はありませんでしたが、TROPHYの場合は安定性が452Xに劣るとして、さほど好評ではなかったようです。本来は452Xの代替えとなる製品だったのかもしれませんが、452Xが異例の長寿命な製品になっているのは、そんな理由があるからかもしれません。